実際に裁量労働制で働いていたときのこと
最近よく、ニュースで「裁量労働制」という言葉を耳にします
政府のいう「働き方改革」の一環であるが、各所から指摘されていると通り、問題があります
先に書いておくのは、この記事はそういった政治的なお話しではなく、
実際に裁量労働制で働いていた身で感じ、思ったことを愚痴にしたものです。
私は大学卒業後、新卒で広告制作会社に入社し、昨年11月に退社いたしました。
約3年半勤め、諸々の事情があり「去る」という決断をいたしました。
その会社が、いわゆる「裁量労働制」を採用している企業でした。
この制度の細かいお話しは、知っている方も多いと思うし、実際に説明するのは
面倒なので、適当にググってください。
社会に出て右も左もわからない私でしたが、やはりネット社会で育った身です。
「ブラック企業」というものがどういうものかは知っているつもりでした。
ですので、入社してすぐにここがそういうものだとはわかりました。
初出勤日から数日間は定時で帰りましたが、その後は当たり前のように終電で帰る日々になりました。
タイムカードは切っていました。そこを誤魔化せという企業ではありませんでした。
「誤魔化せ」と言われたことはありません。誤魔化したことは、何度もありますが。
まだ社会に出たばかりでしたし、世の中が厳しいというお話しは嫌というほど聞きましたし、
なにより広告関係は業界そのものがそういう体質です。
退社時刻が遅いのは仕方ない。これは今も変わらず思っています。
何かをゼロから作るというのは、時間がかかります。
しかし、帰りが遅いのと、それに代価が発生しないのは全く別問題です。
私が残業代が出ないこと、自分の会社が「裁量労働制」であることを知ったのは、
入社して1週間ほどしてからでした。
教えてくれたのは、まさかの同期でした。
「裁量労働制だから出ないと最終面接で言われたでしょ?」と言われ、目を点にしました。
だって言われてないんですもの。
私を含め、同期は4人いましたが二人は聞いていて、私ともう一人は知りませんでした。
そしてその二つのグループは明確でした。
聞いていた二人はデザイナー志望で、私達二人は営業でした。
ようは「どこに行っても帰りの遅いデザイナーには裁量労働制であることを伝え、
業界によってはそうではない営業には伝えなかった」。そういうことです。
もちろん、入社前の書類などには記載されていたんでしょう。そこは私のミスです。
裁量労働制について家に帰って調べ、絶望したことを今でもはっきりと覚えています。
だからといって辞める勇気もなく、最初は嫌だった終電までの残業も慣れてきた頃。
会社に労基の立ち入り検査がはいりました。
新卒で入った会社に数ヶ月で労基が入るなんて、想像もしていませんでした。
それで企業の体質が変わったと思いますか? いえいえ、変わりません。
労基は一応指導はして、会社もそれに答え終わりました。
役にたたねぇ機関です。
労基が去ったあと、社長より社員に対しての説明がありました。
「うちは裁量労働制だから残業という概念はない」はっきりこう仰れました。
しかし、これを機に会社に「深夜勤務手当」がつくようになりました。
え?なかったの? そう思うかもしれませんが「裁量労働制」です。ないですよ。
だって「いつ働こうが労働者の勝手。深夜に仕事をしたのは社員の裁量によるもので、
会社がそれに対して手当を払う必要はない」という理屈がありますから。
笑ってしまうような屁理屈ですが、労基が入るまではそれが当然だったわけです。
まあ、その手当も申請しなければ出ませんでした。
つまり、出なかったわけです。
しかもこれ、更に笑えたのが一時間の深夜勤務でも数百円しか出なかったことです。
なぜかわかりますでしょうか?
さきほど言いました。裁量労働制である以上、残業は存在しません。
通常、深夜勤務手当は
「使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
このように労働基準法で定められています。長ったらしく書いてますが、
「通常賃金に25%がプラスされる」ということです。
つまり通常賃金(100%)+深夜勤手当(25%)が支給されるはずなのですが、
会社では「深夜勤務手当(25%)」だけが支給されました。
曰く「深夜に勤務していようと通常賃金は裁量労働制である以上、基本給に含まれていて、支払う必要がない。深夜勤務手当の分だけが支給対象だ」という説明をされました。
よって、申請しても300円程度しかきませんでした。1時間ですよ?
ところで、出勤時刻について話おかなければなりません。
裁量労働制は社員が仕事を裁量します。つまり、出勤時刻は自由なはずです。
定時はもちろんありました。ごく一般的な8時間勤務1時間休憩です。
すくなくとも私が勤めていたところは、自由出勤ではありませんでした。
定刻に遅れた場合、その時間分だけ有給を消化する必要がありました。
また、賞与の際に遅刻した回数分だけで賞与を10%ほど下げられていました。
つまるところ、裁量などないのです。
定刻を過ぎたことと、裁量は別問題。そういう認識だったのかもしれません。
ただそんなことをされれば、絶対に定刻に出社しないといけません。
なんせ所得まで人質にとられています。逆らえるはずもありません。
無理な勤務をさせて、社員が遅れて来れば、数万円単位で人件費を削れる。
社長がかなりのやり手であることを悟りました。
さて、個人的に一番驚いたことをお話しすると、ある日突然定時が変わったことです。
「は?」と思いません? 僕は思いました。
結局、労基の指導は一度では済まなかったようで、会社にこういう勧告がありました。
「公開されている労働時間と、実際の勤務時間が乖離しているため、是正してください」
正式な文言は下っ端が知るはずもなく、そんな感じだったようです。
実際の時間を公開するとひどいことになってしまいます。
書けるはずありません。出入りが激しいところです、入ってくる人がいなくなります。
そこで苦し紛れの施策として、就業時間を一時間を伸ばすことに決定しました。
社員には事後報告です。そうしました、という連絡だけがされました。
原則、労働条件の変更には意思確認がいるはずですが、されませんでした。
この時も出た言葉が「裁量労働制」でした。
「終業時刻は一時間伸ばしたが、そもそも裁量労働制で個人に任せているので、
問題ないと思う。だから今まで通りの時刻で帰ってもいい」
これを「ありがたいだろ?」という感じに案内されたときは「死ね」と思いました。
さて、こんな感じの労働条件でした。他にもいっぱいありますが、もういいです。
精神的に思い出して辛いので。
退職してから計算しましたが、平常時で残業時間は約80時間〜90時間ほど。
繁忙期は120時間以上はありました。
これ「会社が定めた始業時間」から計算したものです。
忙しいときは始業時間より数時間前に出社していたりするので、あてになりません。
これも個人の裁量でしたから、労働時間には含まないそうです。
無理な勤務が祟り、同期の三人は全員が体調を崩しました。
一ヶ月以上の長期の休暇をとり、二人はそのまま退社しました。
私も体調こそ崩しませんでしたが、気が触れそうになったことは10や20ではすみません。
最終的に自身のミスが重なったこともあり、始発で来て終電で帰るという日々を
繰り返し、毎日数時間怒られ、真っ青になって帰ってきたところで
家族から「いい加減にしろ」と説得され、辞めることにしました。
新卒からそんな感じだったので、異常に気づくことはできても、自分で決断できませんでした。
いつも通りだと思ってしまっていたんです。
今月から再就職し、ほぼ定刻で帰れる企業に勤めています。
平時の夜があいているということが、こんなに素晴らしいとは思いませんでした。
深夜1時に帰るというのが三年半も続けばそうなると思います。
ただ、私自身、別に「長時間労働反対!」と歌うつもりはありません。
実際、残業代が出ていればやめなかったと思います。
時間がかかる仕事はあります。仕方ないんです。
でも最初に書いた通り「代価を払わない」というの別問題。
長時間労働させれば、その分支払いが発生するのは当たり前です。
ですから、よっぽどの無理がないかぎり、当人が希望するんであれば、
働かせればいいと思います。しかし、ちゃんと代価を支払って。
タイム・イズ・マネー。時は金なり。
これを忘れちゃいけません。
変な制度で誤魔化さず。
そんな経験から、私は「働き方改革」なるものは、冷たい目で見ています。
だって「改革」なんて求めていないですから。
働いた分だけ代価を得る。それを「時給制」にするのか「歩合制」にするのか。
それは各企業と労働者が決めればいいと思います。
そして実際、現行の制度でそれは可能で、皆しているはずです。
必要なのはそれを犯している企業への、しっかりとした取り締まりです。
金曜日に早く帰るなんて、どうでもいいです。
改革はいりません。いるのは法令遵守という、当たり前の価値観。
ただのコンプラです。
今はそれがおかしいから、皆苦しんでいるんです。
ですので、これを読んだ方は「裁量労働制の拡充」というニュースには注目すべきかと思います。
あなたの会社も、こんな会社になるかもしれないので。
最後、私が3年半勤められたのは、職場の人に恵まれたからです。
人間関係に悩まったわけではありませんが、上司も先輩もいい人でした。
だからこそ耐えれましたが、どの企業もそういうわけではありません。
こんな労働条件に人間関係の悩みまでプラスされれば、自殺者はぐんと増えるでしょう。
0コメント